東京地方裁判所 昭和40年(ワ)4325号 判決 1966年10月11日
原告 土田十三吉
右訴訟代理人弁護士 山本宏
被告 呉尤陣こと 呉陣内
右訴訟代理人弁護士 古関三郎
同 長井清水
主文
訴外大塚富次が昭和四〇年二月一六日被告との間でした別紙目録記載の債権に関する譲渡契約を取消す。
被告は原告に対し、金三八万六、一〇〇円及びそのうち金四万二、九〇〇円に対する昭和四〇年六月六日から、金三四万三、二〇〇円に対する昭和四一年九月一日から右各完済に至るまで年五分の割合による金員の支払をせよ。
訴訟費用は被告の負担とする。
この判決の第二項は、原告が金一三万円の担保をたてるときは、仮に執行することができる。
事実
原告訴訟代理人は主文第一ないし第三項同旨の判決並びに第二項について仮執行の宣言を求め、その請求原因として
「一、 原告は昭和三九年一二月一二日、訴外大塚富次連帯保証のもとに、訴外株式会社木村屋(以下訴外会社という。)に対し、六五〇万円(弁済期は内金三〇〇万円については昭和四〇年三月一日、内金二〇〇万円については同月六日、内金一五〇万円については同月二一日)を貸付けた。
二、大塚は、その所有の別紙債権目録記載の建物(以下大塚ビルという。)を農林省共済組合本部ほか九名に賃貸し、その賃料は月額八九万五、八三八円に達していたが、同人は昭和四〇年二月一六日右賃借人全員に対する賃料債権中昭和四〇年三月分から昭和四二年七月分までの計二年五カ月分二、五九七万九、三〇二円を被告に譲渡し、その後同年四月一日右譲渡債権を農林省共済組合本部ほか五名に対する昭和四〇年四月分から昭和四二年一一月分まで二年八カ月分の賃料債権一、〇一五万五、二六四円に減額変更した。
三、大塚は大塚ビルのほかに同ビルの敷地二五五、八六平方メートル、訴外会社所有の木村屋ビルの敷地二〇六、〇一平方メートルを所有しているが、右物件はいずれも訴外会社に対する各債権者が担保権を設定し、被担保債権総額は一億五、六六〇万円に達し、そのほかに大塚に対する無担保債権が総額(原告分も含め)約五、〇〇〇万円に及んでおり、前記物件をもってしてもこれら二億円をこえる債務は完済の見込みなく、そのほかには同人には、大塚ビルの賃料債権以外に見るべき資産がない。
四、ところが、大塚と債権者でもない被告とは通謀して債権者を害する意思で本件債権譲渡をし、被告は農林省共済組合本部に対する賃料債権中昭和四〇年四、五月分四万二、九〇〇円を同年五月末日までに、同年六月分から昭和四一年九月分まで一六カ月分三四万三、二〇〇円を昭和四一年八月末日までに受領している。
よって、原告は本件債権譲渡中農林省共済組合本部に関する部分の取消、受領済の賃料及びこれに対する受領以後の各日から右完済に至るまで法定の遅延損害金の支払を求める」
と述べ、証拠として、甲第一ないし第一四号証を提出し、証人大塚富次、大塚稔の各証言、原告本人尋問の結果を援用し、「乙第一号証の成立は不知」と述べた。
被告訴訟代理人は「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする」との判決を求め、答弁として
「一、原告主張事実中第二項及び賃料受領の点は認める。第四項中その余の事実は否認する。その余の事実は知らない。
二、被告は大塚に対し、(一)昭和二八年一月二〇日二〇〇万円(弁済期日同二九年一月一九日)、(二)昭和三二年九月一〇日一〇〇万円(弁済期日昭和三三年六月三〇日)(三)昭和三七年一月三一日二〇〇万円(弁済期日同三九年一二月三一日)を、いずれも年一割の利息で貸付けたが、大塚がその支払をしないので、昭和四〇年一月一九日大塚と右債務の元利合計八七一万円について準消費貸借契約を結び、大塚はこの債務の支払に代えて本件債権譲渡をしたものであり、被告は大塚から同人が原告あるいは他の債権者に対し連帯保証債務その他の債務を負担しているとの報告をうけたことがなく、本件債権譲渡が他の債権者を害することを知らなかったものである」
と述べ、証拠として、乙第一号証を提出し、証人大塚富次の証言、被告本人の尋問の結果を援用し、甲各号証の成立を認めた。
理由
成立に争いのない甲第一号証、証人大塚富次の証言、原告本人尋問の結果によれば、原告が昭和三九年一二月一二日、大塚富次連帯保証のもとに、訴外会社に対し六五〇万円を貸付けたことを認めることができ、原告主張第二項の事実及び賃料受領の点は当事者間に争いがない。
そこで、本件債権譲渡が大塚の債権者を害する行為であるかどうかを判断する。成立に争いのない甲第三ないし第一四号証、証人大塚富次の証言の一部(後記信用しない部分を除く。)、同証言により成立を認めうる乙第一号証、同大塚稔の証言、原告本人尋問の結果、被告本人尋問の結果の一部(後記信用しない部分を除く)を総合すれば、大塚は、大塚ビル及び原告主張の土地二筆を所有していたが、昭和四〇年二月当時右不動産の時価は二億円以下であったのに対し、大塚の債務は、訴外会社のための連帯保証債務を含めて、約三億円にのぼっており、同人には右不動産以外には大塚ビルの賃料債権のほかみるべき資産はなかったこと、本件債権譲渡が債権者でもない被告に対し代物弁済を仮装してなされたことが認められ、証人大塚富次の証言、被告本人尋問の結果中右認定に反する部分は信用できず、他に右認定を左右するに足る証拠はない。
右事実に徴すると、大塚が債権者を害することを知りながら本件賃料債権をあえて被告に譲渡したものであることも、被告が右債権を譲受けるに際してこれをよく知っていた悪意の受益者であることもまた明白である。
よって、本件債権譲渡中農林省共済組合本部に関する部分の取消並びに既に右共済組合から受領した昭和四〇年四月分から昭和四一年九月分までの一八カ月分の賃料三八万六、一〇〇円及びそのうち四万二、九〇〇円に対する受領以後の日である昭和四〇年六月六日から、三四万三、二〇〇円に対する受領以後の日である昭和四一年九月一日から右各支払済に至るまで法定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める原告の請求は理由がある<以下省略>。